建設キャリアアップとは

 建設キャリアアップシステムとは、建設業技能者の知識と経験をデータ化し、賃金の支払い増加、処遇改善・生産性の向上を目的として、建設技能者本人の能力や実力、社会保険加入状況、研修歴、資格取得履歴などをまとめて管理するシステムの総称を言います。

 具体的には、一人一人の技能者にマイナンバーカードのようなICカード(キャリアアップカード)を発行し、いつ、どの現場に、どの職種で、どの立場で働いたのか等の就業履歴を簡単に記録させるシステムです。

 このカードは、技術者の資格やキャリアに応じて、白(レベル1)、青(レベル2)、銀(レベル3)、金(レベル4)と4ランクあり、それらの色で技術者の実力を表すものとなります。また、会社に所属する技術者のレベルが高い人が多いことは、会社の実力が高いことになります。


現在の建設キャリアアップの状況

建設キャリアアップシステム自体は、登録は任意です。また登録の手間や費用、そして登録期間が数ヶ月間掛かる等のデメリットもすくなくありません。

しかし現在は、徐々に建設キャリアアップシステムは登録化が避けては通れない方向に進んでおり、現在でも外国人技能実習生を受け入れる場合は例外的に登録が必要となります。2019年4月からは本格運用が開始され、今後は国土交通省が主導で、建設業退職金共済や社会保険確認、公共工事等も建設キャリアアップの利用に移行していくようなので、建設業を営んでいく方は、遅かれ早かれ登録は必要になると思います。


2023年時点で、建設キャリアアップ未登録が影響するもの

①外国人技能実習生を受け入れる場合は事業者登録が必要

建設業における「外国人技能実習生」は、失踪者発生や事業者の法令違反が多い状況であり、政府は、労働環境が問題であると考えているようです。対策として、キャリアアップシステムの登録を義務化することで、より適切な労働管理を行うことができると考えているようです。そのため、外国人技能実習生を受け入れる際は登録が必要となっている様です。

②「経営事項審査」の加点項目に影響する

経営事項審査とは、業者の経営状況や規模について点数づけをして評価する審査です。主に公共工事の入札等を行う場合に、必要になります。仮にキャリアアップ建設システムの登録を行っていない場合、経営事項審査における加点項目である「技術者レベルの4段階評価」が行えない状態になります。公共工事を中心に工事を行っていきたい会社の場合、基本的には加点項目を全て抑えておきたいところです。

③「公共工事」を受注するのであれば、登録は避けて通れない

公共工事を受注するには、前述②の経営事項審査を受ける必要があります。また、⑤でも記載しましたが、今後、建設業退職金共済(建退共)がキャリアアップシステムを利用します。さらに、公共工事では原則利用となっている関係から、建設業者が公共工事を受注する場合、建設キャリアアップの未登録は実務上、難しいと思います。

④「受注できない」、「現場に入れない」可能性

建設キャリアアップシステムへの登録は、国から元請け事業者(大手ゼネコン)への働きかけを行っております。元請け事業者(大手ゼネコン)から発注先事業者への登録を推奨するパターンも多いです。特に、社会保険の加入確認を建設キャリアアップを利用する関係から、登録していない場合、現場に入れない可能性もあります。元請け事業者が大手の場合、早めに登録しておいた方がよろしいと思います。

⑤建設業退職金共済のキャリアアップ建設システム完全移行による事務作業の増大

令和5年度からは、民間工事も含め、CCUS活用へ完全移行されると発表されております。また、経営事項審査での掛金充当状況の確認方法の見直しも行われる予定で、ますます建設キャリアアップへの移行は進んでいくと思われます。


建設キャリアアップの利用手順

①事業者の登録

事業者登録を行うことで「事業者ID(数字14桁)」が作成されます。登録には、事業者(法人や会社)の登録を最初に行います。商号や所在地、建設業許可情報等の基本情報を登録します。

②技能者の登録

技能者登録を行うことで、「技能者ID(数字14桁)」とキャリアアップカード(③の画像のもの)が作成されます。登録には、本人情報(所属事業者ID、所属事業者名、職種、社会保険加入状況、建退共加入状況、保有資格、研修受講履歴、表彰、健康診断受診歴等を登録します。

③カードを取得

技能者の登録が終了し、1ヶ月程度経過すると、技能者一人一人にカードが届きます。

④現場の登録・施工体制の登録

元請事業者として現場を開設する事業者の方は、現場を開設する際に現場・契約情報を登録します。また、事業者の方は、現場・契約情報に対して、それぞれの施工体制を登録し、自社に所属する技能者の情報(氏名、職種、立場(職長等)を登録します。

⑤就業履歴の蓄積

技術者が出勤した際に、現場事務所等にあるカードリーダー等にタップ等すると、就業履歴が蓄積されます。

⑥経験の見える化

技能者が、いつどこでどんな作業をしていたのかが、電子情報として蓄積されますので、経歴等が簡単に証明できるようになります。また、現在の保有資格や、建退共手帳への証紙の貼付け状況等も合わせて確認が可能となります。


Q&A

Q:建設キャリアアップを急いで作ってくれと元請けから言われた。どのくらい時間がかかる?

A:建設キャリアアップの登録には、事業所登録と、技術者登録が必要になります。現状ですと、事業所登録で約1ヶ月、技術者登録で約1ヶ月、合計で約2ヶ月程度かかります。工事の受注を受けてから急いでキャリアアップに登録していては、工事開始までには間に合わないと思います。特に、技術者登録には、技術者の写真であったり、身分証明書であったりと、個人的な書類が必要になり、時間がかかる傾向があります。元請けや発注先から、キャリアアップの登録が必要とのお話があった場合は、なるべく早めに申請をされることをおすすめします。

Q:一人親方(個人事業主)だけど、建設キャリアアップの登録はできるの?

A:一人親方の個人事業主の方でも、建設キャリアアップの登録はできます。その場合、上記の様に、事業所登録と、技術者登録が必要になります。こちらの場合も、登録する時間は、上記の質問と同じ程度かかります。

Q:公共工事等を頻繁に受注しているが、建設キャリアアップは必要なの?

A:必要か必要でないかで言えば、今はまだ必要ではありません。しかし、公共工事等を頻繁に受注されているのであれば、建設キャリアアップは取り組まれた方が良いと思います。栃木県を例にすると、建設キャリアアップを全ての公共工事を運用すれば、経営事項審査で10点加算等とアナウンスがされております。今後も、公共工事等を積極的に受注していきたいと考えているのであれば、建設キャリアアップの運用は避けて通れなものになると思います。